会式(えしき)のにぎわい
春、四月。
今年も一日から七日まで、津観音の「お会式(おえしき)」が行われる。
いにしえより津観音は、浅草、大須とともに日本三観音のひとつに数えられるほど信仰を集めていて、市民は親しみを込めて「観音さん」と呼び習わしている。
ご本尊の秘仏「聖観世音菩薩」が、和銅2年(709年)4月1日に、阿漕の海で漁師の網に掛かり救い出されたことに由来して、同日を草創記念日のお会式として祭礼が催されているらしい。ご本尊が、会式の間だけ御開帳されることもあり、たいそう賑わう。
縁日の境内や沿道には、露店が出て人通りも多い。子ども心にも、お祭りの華やいだ雰囲気が刻まれている。わたあめ、天津甘栗、ポン菓子、串カツ、射的、くじ引きなどがひしめき、香りや声音が人いきれと混じりあって、通りに満ちていた。
また、当時の露店には、今ではお目にかかれないバナナの叩き売りやガマの油売りもあって、きまって幾重にも人垣ができていた。
「さあーて、お立会い」という掛け声に、前列の人が地べたに腰を下ろす。中ほどの人たちも中腰になるので、香具師の人が車座の中心で存分に演じられるよう、すんなりと舞台が整えられた。
長着に袴、大刀の一本刺しという出で立ちで、「抜けば玉散る氷の刃」と言いつつ刀を大上段に振りかざせば、観客からは「おおー」と歓声が上がる。切り刻んだ紙片が吹雪のように舞う頃には、人垣が倍ほどに膨らんでいた。
一方、バナナの叩き売りは、映画の寅さんと同じような服装で、ハリ扇の小気味よい音を合いの手に、畳み込むように値段を連呼して、購買意欲を掻き立てた。お終いの決まり文句は、「〇〇円でどうだ。これ以上はびた一文負けられねえ。もう△△円だ。もってけ泥棒!」。これを潮に、サクラが「買った!」と啖呵をきる。すると、周りの人たちもつられて、我先に買うという寸法。
毎度おなじみの光景が、一日数回見られた。
後年、自分自身が「ドクダミ茶」や「スギナ茶」を、フェスティバル(お祭り)やマルシェ(市場)で商うことになり、往時の香具師の皆さんの口上と身のさばきに、心ひそかに惹かれていたことを悟った。
それで、春爛漫の会式の賑わいをしみじみと想い出した。